“働かないアリ”として働いてゆく!

2024年4月8日


サイエンスライター・多摩市科学あそびの会

伊沢 尚子さん 
(シーズレター2024.4.1号)

 取材の始めに「肩書きは、サイエンスライター?」と尋ねたら、「“科学の周りをフラフラしている人”かなぁ…」と、いきなりとぼける伊沢さん。『カビのふしぎ』『バナナのはなし』などの子ども向け科学絵本のほか、大人向けの著書もある。「次、出版したい企画は?」と尋ねると、「虫の耳の話!」と目が輝いた。「人間の耳は顔の左右にあるけど、コオロギは前脚に、カマキリは胸のあたりにあるんだよ」と言われて、思わず「へぇ…なんで?」と続きを聞きたくなる。伊沢さんと話していると、科学の楽しさ、面白さに引き込まれてしまう。

 大学を卒業して2年間、教育出版系の民間企業に勤めた後、有名な昆虫カメラマンの事務所へ転職。2年後、フリーのライター・編集者となり、今に至るが、フリーの仕事は波が激しい。タイトなスケジュールで仕事が集中することもあれば、まったく手が空いてしまうこともある。絵本などの企画を10本近く提案してあっても、音沙汰なく月日が過ぎ、忘れた頃に「この間の企画、本にするからよろしく」と連絡が来た途端、寝る間もないほど忙しくなったりするそうだ。

 多摩市で暮らしはじめた二十数年前、2人の子どもは運良く保育園に入れたが、周りの母親たちが安定したフルタイム勤めをしている中で、「仕事が暇なときも子どもを預けていいのか?」「母親としてこれでいいのか?」と感じ、居心地が悪かった。「働いていない自分は社会に許してもらえない」と思い込み、あちこちでボランティア活動に参加するようになったが、なんとなく感じる負い目は、長い間、拭いきれなかったという。

 ところが数年前、“働かないアリ”のことを知って、気持ちが晴れた。“働かないアリ”は無駄な存在に思えるが、実は、緊急事態に備える待機要員。コロニー(集団)が長く存続するために必要なのだという。「私って、仕事がないときは、社会の“働かないアリ”として働いてきたんだね。やっと自分の働き方が腑に落ちたよ」と笑う。

 長い間、社会の“働かないアリ”として暮らすうち、自然に地域とのつながりが広がっていった。小学校や子ども関連施設からの依頼で科学あそびのイベントをしたり、“科学”と名の付く様々な研究会・市民団体や、環境保全、昆虫食研究などの活動に顔を出したり。民間企業で“骨の解説員”というちょっと変わったアルバイトもしているが、それ以外はほとんどがボランティアだ。収入になるかどうかは関係なく「子どもたちに科学の楽しさ、面白さを伝えたい。理科の成績を上げたいんじゃなくて、この世の“土台”に科学があることを知ってほしい!」という。

 これからも「働かないアリとして、働いてゆく!」と宣言する伊沢さん。身近にこんな人がいるって、面白いし、ありがたい。

カビのふしぎ 伊沢尚子/著 細矢剛/監修・写真 汐文社
バナナのはなし 伊沢尚子/文 及川賢治/絵 福音館書店
小さな小さなウイルスの大きなはなし 伊沢尚子/文 坂井治/絵 中屋敷均/監修 くもん出版


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